2024年07月01日

「アンゼルム―傷ついた世界の芸術家」を観てきました。

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ヴェンダース監督の「アンゼルム」は2023年5月17日に第76回カンヌ国際映画祭のワールド・プレミアで上映され、同年の東京国際映画祭でも上映されました。が、私は見ることができませんでした。「PERFECT DAYS」の方が先行で上映されたので、いつか観られるだろうかと不安になりましたが、2024年3月頃、日本での公開が発表され、胸をなで下ろしました。ヴェンダースのドキュメンタリータッチで実在の人物を取り上げた作品は外れがありません。キューバのミュージシャンたちに始まり、ピナ・バウシュ、セバスチャン・サルガド、法王フランチェスコ‥。基本的にはノンフィクションですが、回想でフィクションが入ったり、過去のインタビュー映像と現在の作品をつなげたり、ヴェンダースのカラーが存分に発揮されています。

2024年6月21日に公開され、23日と30日、2回に分けて観に行ってきました。最初は2Dで新宿武蔵野館、2回目に3DでTOHOシネマズ日比谷へ行きました。

最初に2Dにしたのは上映後に建築評論家の方のトークショーがあったためです。そのおかげで全く知らなかったキーファーのことがわずかですがつかめるきっかけになりました。1980年代後半〜1990年代に日本で展示会も開かれていたようですが、今年の4月2日〜7月13日のファーガス・マカフリーでの展覧会(Anselm Kiefer: Opus Magnum)が実に26年ぶり。文献もそれほど多くなく、『ユリイカ』1993年7月号と『美術手帖』1989年4月号。プレミアがついていますが、美術手帖の方が入手しやすいです。画集は多数出ていますが、解説書はあまりなく。ファーガス・マカフリーの展覧会図録はしっかりしているそうですが、10,000円となかなかお高い。

映画は1体の白いドレスの彫像から始まります。フランスのバルジャックにあるラ・リボートと呼ばれるキーファーの工房と呼ぶには巨大過ぎる工場のような建物があり、その敷地内にある顔のない彫像です。その後、工房の中に映像が変わって絵が移動されてきますが、その絵を押しているキーファー自身が登場すると、絵のサイズの大きさに驚かされます。キーファーは工房の中を自転車で移動していきます。そのシーンが終わると、すぐにキーファーの生まれた頃からのストーリーが始まります。写真と当時の映像を組み合わせて、戦後ドイツの歩みが描かれ、ふっとそれが終わると今度は小さなアンゼルムが登場します。これがヴェンダースの「great-nephew」とあるので“甥か姪の息子”だと思います。役名に「Anton Wenders」という名前を見つけたとき、ヴェンダースに子供や孫はいなかったはず‥と思ったら、そういうことだったんですね。

個人的に嬉しかったのが、パウル・ツェランの肉声で「死のフーガ」の朗読が登場したシーン。内容は非常に暗いものですが、やはりドイツ語の詩の「音」は美しい。映像の中で文字も投影してくれたので、わかりやすく、じっくり聴けました。「君の金色の髪マルガレーテ」はツェランの詩からインスパイアーされた作品だそうです。

冒頭の白いドレスの女性像が再び温室のような室内にたくさん展示されているシーンがあります。この“Die Frauen der Antike(Women of Antiquity/古代の女性たち)”は紀元前からの歴史上の女性の名前がそれぞれの作品についています。“Die Frauen der Revolution(Women of the Revolution/革命の女性たち)”が防空壕の中のような場所にベッドで表現していたのと打って変わって明るい場所で華やかな白に包まれていますが、顔がない、というか様々なものがのっかっていて、やっぱり無機質です。

Die Himmelspaläste(The Heavenly Palaces)は鉄筋コンクリート製の塔で、今もミラノのピレリ・ハンガービコッカ美術館にあるのだと思いますが、同じつくりのものがやはりバルジャックにあるようで、これなんか日本に運んだら地震で壊れそうです。

それにしてもこの広大な工房。キーファーはアトリエを転々としてきているようです。作品の巨大さもそうですが、それを製作できる環境も含め、芸術家としては経済的に非常にに成功していることがよくわかります。アメリカでの成功が大きいのだろうとは思います。

現在のラ・リボートは約40ヘクタール(東京ドーム8.5個分)に70以上もの作品が設置されており、2022年5月から季節限定・完全予約制で一般公開されているそうです。凄そう。

アンゼルム・キーファーの作品は当初は普通サイズの絵画でしたが、どんどん大きくなっていきます。彫塑というよりは建築物のようです。また、絵の素材も自然のもの、ブリキや鉄と様々に変わっていきます。そうすると必然的に作品は重厚でダイナミックになっていきますが、どうにも色合いが地味です。黒、茶色、灰色、深い青‥そんな色ばかりです。神話、戦争、ナチス‥ドイツの現代芸術らしい。

音楽も重厚なクラシック音楽です。レオナルド・キュスナーというまだ30歳と若い作曲家の手によるオリジナルサウンドトラックで、映像に負けないスロヴァキア・ナショナル交響楽団による演奏です。これがYouTubeにあがっています。

「PERFECT DAYS」が1960〜70年代フォーク/ロックに統一されていたのとは対照的です。あちらは多くのアーティストの曲だったのでサントラ盤つくれなかったようで、それが少し残念でした。

詳細はこちらに→アンゼルム 傷ついた世界の芸術家

「アンゼルム 傷ついた世界の芸術家」公式サイト
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2024年02月19日

「ヴィム・ヴェンダースの透明なまなざし」展

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2024年2月1日(木)から3月2日(土)まで中目黒にあるN&A Art SITEで開催されている「ヴィム・ヴェンダースの透明なまなざし」展を観てきました。中目黒から徒歩5〜6分というところでしょうか。会場は先だってのドナータの写真展をやったところからも、そんなに遠くない場所にありました。

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会場には「夢の涯てまでも」(1991)のときの写真集「Electronic Paintings」から12点と「パリ、テキサス」(1984)のときの「Written in the West」(1983)から9点が展示されていました。(Electronic Paintingの方は撮影可、Written in the Westの方は不可でした)

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笠智衆に宛てたヴェンダースの直筆サイン入りの「ELECTRONIC PAINTEING BY WIM WENDEERS」のケースが最初に転じされ、これは手を触れることは出来ませんでしたが、写真集「Electronic Painting」もおいてあったので手袋をはめて観ることができました。この写真集は初めて見ました。その他「夢の涯てまでも」関連の資料や写真等が各種展示されていました。
また、会場内では「Wim Wenders in Tokyo」という1時間3分のドキュメンタリーがループで流されていました。「夢の涯てまでも」をNHKの編集室で制作したり、ハイビジョンを編集したり、撮影したりといった様子が観られます。この番組、NHKのドキュメンタリーとして放送されたのではないかと思うのですが、典拠が見つかりませんでした。ジャンヌ・モローが石に寄りかかっているシーンを何度も撮ってるところ、うっすら記憶にあるような気がするのです。思い違いかもしれませんが。

私はこの写真展は主に「Written in the West」の写真が見たくて行きました。ヴェンダースの写真数は大量に出ているので、全部はとても買い切れませんが、数冊持っています。中でもこの「Written in the West」がとても好きなんです。ヴェンダースが撮った乾いたアメリカのノスタルジックな風景がいいなぁと思っています。だから「Don't come knoking(アメリカ、家族のいる風景)」も好きです。→WRITTEN IN THE WEST

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1ELECTRONIC PAINTINGS BY WIM WENDERS (サイン付ケース)199237.5 × 53 × 2.5
2HOUSE / 家199136.4 × 51.5紙、HDプリント
3UNISON / ユニゾン199136.4 × 51.5紙、HDプリント
4FATHER AND SON / 父と子199136.4 × 51.5紙、HDプリント
5BOY / 少年199136.4 × 51.5紙、HDプリント
6SIDEWALK / 歩道199136.4 × 51.5紙、HDプリント
7PILLOW / 枕199136.4 × 51.5紙、HDプリント
8INTERIOR/ 室内199136.4 × 51.5紙、HDプリント
9CORRIDOR / 廊下199136.4 × 51.5紙、HDプリント
10WOMAN RUNNING / 走る女性199136.4 × 51.5紙、HDプリント
11GIRL / 少女199136.4 × 51.5紙、HDプリント
12IN THE FIELD / 畑の中で199136.4 × 51.5紙、HDプリント
13VENICE /ヴェニス199136.4紙、HDプリント
14Untitled198342.8 × 55 × 2.5(額装)紙、チバクロームプリント
15Untitled198342.8 × 55 × 2.5(額装)紙、チバクロームプリント
16Sun dries, Las Veges, New Mexico198342.8 × 55 × 2.5(額裝)紙、チバクロームプリント
17Evening, Near Santa Fé, New Mexico198342.8 × 55 × 2.5(額装)紙、チバクロームプリント
18Evening, Near Santa Fé, New Mexico198342.8 × 55 × 2.5(額装)紙、チバクロームプリント
19Now showing Lowell, Arizona198358 × 68.8 × 3(額装)紙、ダイトランスファープリント
20Lounge paintings Gila Bend, Arizona198356 × 68.8 × 3(額装)紙、ダイトランスファープリント
21Lovely Louise Old Trapper's Motels, San Fernando, California198350 × 35.8 × 3(額裝)紙、ダイトランスファープリント
22Evening. Neer Santa Fé, New Mexico198358 × 68.8 × 3(額裝)紙、ダイトランスファープリント
23WIM WENDERS ELECTRONIC PAINTINGS199330.7 × 25.6 × 2
24「夢の選てまでも」関理資料
25ドキュメンタリー
「ヴィム・ヴェンダース イン 東京」
1990可変映像

映画『夢の涯てまでも』関連資料(1991)
・Talking Heads “Sax And Violins”WV 作成時のHDプリント
・NHK 編集室での「Electronic Paintings」制作時のスナップ写真
・日本での映画公開時のパンフレット(3部)
・映画制作時のHDプリント


【N&A Art SITE】『ヴィム・ヴェンダースの透明なまなざし』開催決定(2/1-3/2)

「ヴィム・ヴェンダースの透明なまなざし」展  究極のロードムービー『夢の涯てまでも ディレクターズカット 4K レストア版』東京都写真美術館で10日間の限定上映が決定(PR TIMES)

ヴィム・ヴェンダースが映画から生み出した異色のデジタルペインティング、N&A Art SITEに集結(美術手帳)

展覧会「ヴィム・ヴェンダースの透明なまなざし」電子絵画と風景写真を展示(映画ナタリー)

ヴィム・ヴェンダースの電子絵画を初公開する展覧会が中目黒で開催(Time Out)
posted by wwfan at 00:39| イベント

2024年01月13日

ドナータ・ヴェンダース「KOMOREBI DREAMS」を観てきました

ドナータ・ヴェンダースの映像展「KOMOREBI DREAMS: supported by THE TOKYO TOILET Art Project / MASTER MIND」を見てきました。映画「PERFECT DAYS」の夢のシーンでも使われた映像のオリジナル版を観ることができる作品12点が展示されています。ざらっとした質感の「木漏れ日」のさまざまな光の映像が上映されていました。

104GALERIEはいいギャラリーでした。作品にとても合っていました。晴れていたら、きっとギャラリーの外にあったテーブルにも陽がさしていたのでしょう。

EXHIBITIONS:KOMOREBI DREAMS
会場:104GALERIE(東京・中目黒)
会期:2023年12月22日(金)〜2024年1月20日(土)

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posted by wwfan at 18:09| イベント

2024年01月02日

「PREFECT DAYS」ロードショーを視てきました

2023年12月22日に公開が始まった「PERFECT DAYS」。いろいろ素敵ですが、平山さんの生活のどこが私に一番響いたかというと、ネットを見てないことですね。情報の遮断。そして自分が必要な情報だけは手に入れている。「清貧」だけど「豊か」。
2回目で気付いたのですが、写真屋のご主人、どうも見たことある‥と思ってたけど、柴田元幸先生ですね。本屋の主人は最初、細野晴臣さんにオファーがあったとか。スケジュールが合わなかったとのこと。惜しい。
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前回パンフレットがなかったので、買うためにもロードショーをと思っていたのですが、年内忙しくて、お正月になってやっと行きました。新しくできた新宿のkino cinemaに行ったら、なんとパンフレット売り切れ!それで新宿TOHOシネマズまで移動しましたよ(徒歩10分程度)。そしたらありました。最初からそちらに行けばよかった。発売と同時に買った『Switch』と一緒に。
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posted by wwfan at 17:53| 公開情報

2023年10月30日

「PERFECT DAYS」東京国際映画祭先行上映に行ってきました

日比谷TOHOシネマズでの先行上映で「PERFECT DAYS」を観てきました。東京国際映画祭初日の抽選は外れました。先行上映だからポスターもパンフレットもないのでせめて映画祭の看板を撮ってきました。
早速Spotifyで見つけたPlaylist聞いてます。Spotifyにはヴァン・モリソンあります。

最初に予想していたのよりずっといい映画です。渋谷区の東京トイレプロジェクトのことはよく知っています‥。毎日3ヶ所ほど通過しますので。ユニクロの御曹司次男が発起人になり、渋谷区と日本財団(競輪で吸い上げた金‥)が組んで東京オリンピックの際に始まった「おもてなし」プロジェクト‥と聞いて「うさんくさい」と感じないのでいるのは正直難しいです。そこへヴェンダース招聘して映画にすると聞いたら「え?」となります。確かにドキュメンタリーに強いので「掃除の人のドキュメンタリーかな」と思いましたが、それだけでどうなるんだろうと思っていたら、役所広司が主役になるとなればドラマではあるはず‥。そんな背景でもちゃんとヴェンダースらしい映画になっているのは、さすがだと思いました。

冒頭からドライブシーンなんですが、本当にヴェンダースはドライブに自分の好きな音楽をかけるのが好きですね。でもそれって大学で映像研に入った人が最初にやりたいやつ。で、ヴェンダース自身も実際映像を作り始めた最初の頃からやっています。「アラバマ2000光年」。上映会で途中で席を立つ人が次々といました。ファンか研究者でもなければなかなか最後まで見続けるのは確かにキツイ。そんなありきたりな映像表現でも、この役者と演出で、ここまで魅せられる映像にしているのが、熟練の技なんだろうなと思いました。

浅草から渋谷という23区横断の旅を毎日してるんだな、この人は‥。私たちの東京が、始めて見る美しい姿になって映っている、と私は感じました。



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posted by wwfan at 14:17| 映画情報