
それはまた別の機会にするとして、今回の「パリ、テキサス」は特典映像が出色である。噂の8mmビデオが入っている。トラヴィスとジェーンのまだ幸せだった頃の、本編ではほんの少ししかないあの8mmフィルムは実際はずいぶん長く撮ったとヴェンダースのエッセイ等で触れられていて、見たいなと思っていた代物だ。その映像にあのトラヴィスの長台詞がのっかってて、ぐっと来るものがあった。しかし、これを使わなかったのは正解だなと思う。この映像を使ってしまったら、がっくりお涙ちょうだいになっていたところかもしれない。そういうギリギリの選択をいつもしていて、それが奇跡的にほとんどあたっているのが「パリ、テキサス」なんだと、その他カットされた映像等を見て、つくづく感じ入った。だからこそ奇跡的に美しい作品に仕上がっているのだろう。
カンヌ映画祭の映像がある。髪をぴっちりなでつけて、タキシードを着たヴェンダースの若き栄光の一日である。でもここでも主役はナスターシャ・キンスキー。若く、美しい。が、なんだかマタニティドレスっぽいものを着ている。調べてみたら1984年6月に長男を出産している。このときのカンヌが1984年5月だから、もう臨月じゃんか。
カットされた映像が23分も入っていて、これもまた嬉しい。しかし、どれもこれももったいないのだが、でも、どれもこれもなくて正解なものばかり。トラヴィスがいきなりこざっぱりしているのはやっぱりおかしいので、当然のように散髪のシーンはあったのだ。それから、トラヴィスとハンターが行ってしまった後のウォルトとアンナ夫婦が黙っているとも思えなかったのだが、でもジェーンから送金があったことを教えたのはアンナだしなぁと思っていた。やっぱり追いかけるシーンはあったのだ。
ハンターとトラヴィスのロスアンゼルスからヒューストンまでの旅路もずいぶん短いなと思っていたら、やっぱりちゃんと撮影してるし。ほかにも、流れからしたらあって当然だが、思い切ってカットしたことによって、テンポがよくなったばかりか、その不完全さがかえって不思議な雰囲気を出していたことがよくわかった。それにつけてもジョン・ルーリーのハーモニカのシーンはもったいないなぁと思うのだけど、やっぱりカットして正解だったんだろうな。
あまりに若くして子供を産んでしまい、もちろん子供がかわいいという気持ちもあるのだが、束縛されているというか重圧にさらされているジェーンの気持ちが、今なら私にもわかる。自分の気持ちに覚悟が何も出来ないまま産んでしまって、その責任をトラヴィスに押し付け、結果的に子供を捨てることになったジェーンはとてつもなく馬鹿なんだけど、若さ故‥かな。おそらく、何も遊んでいない、何も仕事もしていない、ないないづくしの状態のまま育児にだけ専念せざるを得ないジェーンに対して、プレゼントを買おうが、食事に行こうが、そんなものは何の意味もないだろう、そりゃ。でも、おそらくはいくらでもある解決方法をトラヴィスもジェーンも考えつくことが出来なかった、あるいは実行する力がなかった、それがこの悲劇の最初の原因だろうな、とか。
トラヴィスが去っていくことに納得が出来るようになるまで、私はいったい何年かかっただろう。そして、今ようやくジェーンが逃げ出したかった理由が納得できるようになった。
何度見ても切ないな。何度見てもハンターはかわいいな。
さて、パリテキDVDなんですけど、いっぱい語りたいことがあります! 管理人様はまだオーディオ・コメンタリーは未聴かもしれませんので、8mm映像について。管理人様も多分パンフをお持ちであればご存知だと思いますが、映像の後半はジェーンとハンター2人の映像になってますよね。当時の監督インタビューによれば、あれは全部の撮影が終わってから数週間あとに再びナスターシャとハンターを呼び出して3人でルイジアナまで行って撮ったものなんだとか。再び放浪の旅に出たトラヴィスパパに元気でやってるよーというビデオメッセージを送る、というシナリオで実行した小旅行だったそうなんですが、普通に考えたら絶対2時間で収まらんだろ(実際には3時間近いですが)とツッコミを入れたくなるほどのヴェンダースのノリノリっぷりが微笑ましいというか今からすると信じがたいというか。これほどのめり込むなんて、親密な人々との仕事じゃないとできないですよね。コメンタリーで本作をきっかけにハリウッドの映画組合に加入させられた、と言ってますがパリテキ以後現在までどうもアメリカで自由に撮れてないなと感じる原因なのかも知れません。
そういえばTen Minutes Older製作の噂が最初に私の耳に入ったとき、その内容は
「ジェーンとハンターが再会し、トラヴィスが去ってから10分後の世界を撮る」というものだったんです。ヴェンダースが実際にそう発言したんですよ。そのときはめちゃくちゃ興奮して毎日製作情報をネットで探しまわっていたんですが…実際にあがってきたのは全然違う話で、いまだに私はこの作品を観てません…(怒)。
"Land of Plenty"も観ましたけど(私が映画館に足を運ぶのはWWかNKかエゴヤンかサラポーリーぐらいのもんなのに)、最近のWWはほんとサントラに頼り過ぎで辟易してます。ブエナビスタで変な味を知ってしまったのか、ミュージックビデオを撮ってるんじゃないんだからと言いたくなります。ユルゲン・クニーパーの超ストイックなミニマル音楽をおよそピッタリとは思えない場面で使っていた時代のことも思い出してほしいです!
というわけで今日はこのへんにしときます。ボロクソ言ってますがヴェンダース&ポーリーのDon't Come Knockingを観るまでは死ねないと思ってますので、また思ったことを書かせていただきます!
「10ミニッツ・オールダー」は別に見なくても‥という気もします。「ランド・オブ・プレンティ」を見ていて、あれと同じ風景だなぁということを確認しただけですね。
大道芸観覧レポートという写真ブログをつくっています。
映画「パリ,テキサス」もとりあげました。
もし、よかったら寄ってください。
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611
ロビー・ミュラーの奇跡的な映像、ライ・クーダーの音楽、サム・シェパードの脚本(後半はほとんどヴェンダースひとりで書いたらしいですが)、すべてが素晴らしいです。
DVDは持っていないのですが、特典映像は見た方がいいのかどうか、ちょっと迷いますね。あれ自体で完結していますから。イメージが壊れそうで・・・
他には全部見たわけではないですが、「アメリカの友人」、「都会のアリス」なんかも好きです。
いずれにせよ、こうやってヴェンダースの映画について語れる場所があるというのが嬉しいです。このブログを開設してしてくださってありがとうございます。また機会があれば書きこませていただきますね。それでは。